架空国家を作ろう 第2.6世界線 - エルニシア・ライン
エーレスラントの裏設定も参照



FMフィレンツェ-2017年9月10日放送分
Q.エーレスラントってなんでスカンジナビアの南半分しか持ってないの?(ミカエル 10歳)
A.あそこに住んでるのは私たちとは仲良くできない生き物なんだ



概要

エーレスラント連合王国の絶対境界線。正式名称は北方国境線。この領域よりも北側のスカンジナビア半島および周辺諸島は、2020年6月現在、禁踏地指定を受けている唯一の領域である。第一次世界大戦中、ヘルシンキ攻囲戦で陸軍主力を喪ったスカンジナビア王国の命運は尽きかけていた。窮余の一手として、近衛府にて獣医として勤務していたイグマリア・アルノが細菌汚染兵器の使用を提言した。ホッキョクウサギのみを中間宿主とするY.pestis Arcticaが分離されると、感染したウサギ2500羽がバルト海沿岸から上陸した海軍極地作戦群により定着させた。ヘルシンキは瞬く間にペストが蔓延し、軍民あわせて120万人の命が僅か25日間で失われた。サルでの実験結果から、この病原体は腺ペストを引き起こすものと予想されていたが、ヒトに対しては原発性中脳ペストを発症する極めて危険な細菌であることが遺骨調査から判明している。

アウトブレイク

ヘルシンキからロシア軍が撤退したニュースは驚きとそれ以上の喜びを持ってスカンジナビア国民に受け入れられた。しかし、その2日後、ロスヴェールでスカンジナビア市民に感染者が発生。感染は兵站網を這うように伝播し、イェーテボリにまで感染者が及んだ1913年7月2日、スカンジナビア王国政府はある決断を下す。

「北方国境線を規定する。近衛軍はこの境界線を国境として、何人も『国境内』への侵入を許さぬよう努めよ」

この勅令をもって、スカンジナビア政府は実質的な感染区域の切り捨てを決行した。食糧すら尽きかけていたスカンジナビア兵の中には、放された感染ウサギや仲間の遺体を口にする者もいたという。

症状

ヒトがこのタイプのペストに感染すると、数日の潜伏期間を経た後に激症脳炎または髄膜炎を引き起こし、中枢抑制によって死に至る。大脳皮質付近のミクログリアによって貪食されたArcticaはその過程で表面タンパク質の一部が分解され、スフェロプラスト様の形態に変容する。ミクログリアによって分解されたタンパク質はエンドトキシン共役基であり、解放されたエンドトキシンは核内受容体に結合して細胞死を引き起こす。ヒト大脳皮質でのみ発現する作用で、ほかの感染生物には中枢作用が確認されていない。

ペストの中で最も危険なタイプに分類される。腺ペスト末期,敗血症型ペストの経過中に肺に菌が侵入して髄膜炎を続発する場合がある。このとき脳では、中脳黒質や橋が破壊されており、患者は激症型の統合失調症様症状を呈する。この患者が感染源となり,ヒト-ヒト間で接触感染が起こる。経気道感染の場合の潜伏期間は通例2〜3日であるが,最短12〜15時間という例もある。中脳ペスト発病後は通常24時間以内に死亡すると言われる。臨床症状としては,強烈な頭痛,嘔吐,40℃前後の高熱,急激な呼吸困難,頸部硬直を伴う重篤な髄膜炎像を示す。

終戦

世界大戦が終結した次の年に、実行者のイグマリア・アルノは『人類の存続に対する犯罪』を犯したとしてスカンジナビア文民でただ1人、死刑に処されている。除染は不可能と判断され、緩衝地帯としてスカンジナビア北東部は凍結処置が取られることとなった。

陰謀論

大罪人を出したはずのアルノ家だが、終戦直後に当主のバリス・アルノは公爵に叙されている。現行政府院長カスカータ・アルノは言わずもがなアルノ家の出身である。イグマリアはこの大惨事に対する市民感情を清算するためのスケープゴートに祭り上げられたのではないかと推測する者もいるが、当時の実行計画は散逸しており、詳細な事実関係については今日まで特定できていない、

その後

1965年-『陰圧式冷凍室』の受注

1965年にノーマン・インダストリーズの社員Gによって社外に持ち出された文書をロッテルダム・トリビューンが公開した。文書は政府発注の奇妙な仕様の冷凍倉庫の受注書だった。
奇妙な『仕様』
  • 完全機密かつ、冷却系を閉鎖循環方式とすること。
  • 4セグメントに分け、うち2室は外気圧よりも常に500hPa以上低圧であること(陰圧式)
  • 新鮮な外気を送気する回路と、宇宙服に対応したプラグインを陰圧室に備えること
  • 排気を完全に分解できる排気処理装置を備えること
  • 室温は-60℃〜55℃の間で調整可能なこと
  • 緊急時に備え、レッドゾーンの除染を行うための放射線灯と紫外線灯を陰圧室に備えること

など、冷凍倉庫として用いるにはあまりにも不適当な仕様であった。ロッテルダム・トリビューンは当初、NEが架空のハイスペックな仕様を盛り込み、高額の見積もりを算定した不正受注であると報じていた。しかし、この巨大な冷凍倉庫の建設予定地がアラビア連邦の【xxxxx】という事実が判明する。1965年11月2日、トリビューンに掲載された、ブリジッド・マーキュリーと名乗る市民の『仮説』は40年前の惨劇を市民に思い出させるには十分過ぎるものだった。曰く

「政府はArctica株を現在も保有しており、冷凍倉庫の名を借りたウイルス研究施設を含めてアラビア連邦に譲り渡そうとしているのではないか。感染したホッキョクウサギを酷暑のオスマン連邦に適応・順応させるための施設と考えれば、これらの不適切な仕様も全て説明できる」


この報道は直ちに政府によって否定され、社員Gが持ち出した資料は「捏造」だとノーマン・インダストリーズCEOも表明している。翌日にはオスマン連邦政府も関与を否定。一社員の狂言として終わった本事件は、あまりにも詳細かつ写実的であり、細菌兵器が貧者の核兵器として使用される可能性を再び世界に示したマイルストーンとして、エルニシア史に記録されている。なお、エーレスラント衛生省が1968年に定めたバイオセーフティレベル4施設(最高危険度の病原体取扱施設)の規格仕様には
  • 4セグメントに分け、うち2室は外気圧よりも常に500hPa以上低圧であること(陰圧式)
  • 新鮮な外気を送気する回路と、宇宙服に対応したプラグインを陰圧室に備えること
  • 排気を完全に分解できる排気処理装置を備えること
などの基準が設けられており、NE文書の『奇妙な仕様』と一致する部分も少なくない。この点に関して説明を求められたエーレスラント政府は「感染予防のための標準的対策であり、研究者の間では『常識的』な規格である。NE文書と一致することは何ら不自然ではない」と釈明している。ただし、バイオセーフティレベル4に相当する施設は当時世界のどこにも存在しておらず、核燃料製造施設などの基準を援用したとしてもこの説明は不適当だとコペンハーゲン工科医科大学産業防疫研究室のダダ・ハリス教授が指摘している。

1976年の除染計画

「生物は永遠だが、放射性物質は崩壊する」というスローガンのもと、プルトニウムの散布による絶滅計画が企画された。試算の過程で莫大な量のプルトニウムの散布を要することが明らかになり、計画は立ち消えになった。

1982年の除染計画

プルトニウム239の生産量は毎年200トン程度に過ぎず、半減期も24000年以上と実用的でない。政府は原発から排出される放射性廃棄物に目をつけた。セシウム137、ストロンチウム90はともに半減期が30年程度であり、2200年には人間が生活可能な線量にまで抑えることが可能になると見積もられた。

1985年-中距離核戦力全廃条約

中距離核戦力廃止条約の発効に伴い、大量の戦術核が国際市場に流出した。戦術核は戦車やトーチカなどのハードターゲットを撃破することを想定した放射線強化弾頭タイプのものも多数存在した。エーレスラント政府はこれを買い取り、中性子爆弾として除染に利用することを決定。1987年2月2日のデルタ作戦から2002年6月7日のビクトリー作戦まで、15年間にわたり377発の核爆弾を北部スカンジナビアに投下した。

作戦に従事した乗員には箝口令が敷かれたものの「人影を確認した」という証言は後を絶たない。エーレスラント政府は公式に北部スカンジナビアは無人地帯であり、安全を確保した上で核除染を行なっていると説明している。

2006年-バーゼル条約違反

「より穏便な最終的解決」として、エーレスラント政府は高線量の紫外線による陸上生態系の破壊に目をつけた。当時の重要な国際環境問題であったオゾンホールは、ペストに怯えるエーレスラント政府にとって、春の一時期だけ北極上空に紫外線のチャネルを創り、汚染された極圏に対する殺菌灯として機能していた。一年を通して紫外線や宇宙線が極圏を『フリーパス』するのであれば、より早く失地を回復できると踏んだエーレスラントは、秘密裏にオゾン層の人為的破壊に乗り出す。

フロンを含む産業廃棄物を受け入れていたエーレスラント政府は、帳尻を合わせる形で極秘裏にフロンを製造し、航空燃料に混ぜて成層圏に散布していた。その手法は巧妙で、特定機種の軍用機のアフターバーナーにフロン回路を混ぜ、エンジントラブルが起きないように細心の注意が払われていた。また、1700℃にも達するアフターバーナーの熱に煽られたフロンはラジカル体で放出され、同体積のフロンを海面高度から放出したときの約20倍のオゾン層破壊効率を挙げていたとされる。

国防省の内部告発によりこの件が露呈したものの、エーレスラント政府は認めていない。しかし、国際問題となった2006年から顕著にオゾンホールの拡大は抑えられており、エーレスラント政府もしくは利害関係にある機関が意図的にオゾン層破壊を行なっていたことは公然の秘密となっている。

現在

環境遺伝子モニタリングと放射性物質モニタリングが並行して行われている。既にペストArctica株および中間宿主のホッキョクウサギは絶滅している可能性が極めて高く、2080年には有人調査が可能なレベルにまで除染が進むと見積もられている。スカンジナビア内部では南北の国境が原密にコントロールされている一方で、北極海沿岸には境界が曖昧な100年前の地雷が少数施設されているだけであり、ホッキョクウサギが氷床を伝って他の高緯度地域に移動した可能性も否定できない。

エーレスラント政府は「人類の存続は極圏生態系より優先される」として北半球高緯度地域各国に絶滅作戦を再三要求しているが、好ましい回答は得られていない。

各国の反応

  • アネクドートとして
    ゴル王国「種の間のコンフリクトは絶滅で解決できる」
    スカンジナビア王国「生物は永遠だが、放射性物質は漸減する」
    エーレスラント連合王国「より穏便に、極圏の生態系の鏖殺を目指す」
    という3つの北欧系政府の公式声明が並列されることがある。特に意図はない。
  • ポーランド・リトアニア・モスクワ帝国政府公式声明「あの悪魔たちの隣に立ち続けるのは人類が帝国に課した使命である」(1930年2月27日、エーレスラントとの国交回復交渉に難色を示す市民に向けた教書演説より)
  • インドネシア連邦国防省高官筋曰く「世界には敵対してはならないものが3つある。伝統、財務省、エーレスラントだ」(1967年6月某日、コペンハーゲンにて)


時系列

新型ペストをばら撒いてロシア軍を撃退
自国内でアウトブレイク
野蛮すぎるロックダウンを実行
除染のためにプルトニウム散布を計画
除染のために放射性廃棄物散布を実行
除染のために中性子爆弾を投下
除染のためにオゾンホール拡大を計画
除染のためにフロンを軍用機で散布
除染のために北極圏陸上生態系の鏖殺を提案